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東京高等裁判所 昭和51年(ネ)515号 判決

控訴人

小柳貞三

外二名

右三名訴訟代理人

原後山治

外二名

被控訴人

株式会社長北商会

右代表者

長北小弥太

外二名

右三名訴訟代理人

坂井熙一

外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

原判決のうち、別紙第一目録中に「一、大島籾摺機MS三五〇 一台」を加え、同第二目録中「一、宅地 939.18平方メートル」を「一、宅地 938.18平方メートル」に改めるように各更正する。

事実《省略》

理由

一当裁判所は、次につけ加えるほか、原判決と同じ理由で、被控訴人らの本訴請求は原判決認容の限度で理由がありこれを正当として認容すべきものと判断するので、ここに原判決の理由を引用する。

(1)  原判決書〈付加・訂正省略〉

(2)  なお、加茂農機の法人格否認の結果その会社の背後にある控訴人貞三において同会社の買掛金債務を負担する場合においても、同会社の取締役において右会社名義の取引を取締役の業務として執行しその任務に懈怠があり、これにより第三者に損害を与えた場合にはその取締役は商法二六六条の三の規定によりこれを賠償する責任があることは、もともと法人格否認の法理は当該法人に対する債権者を保護するためのものであつて、通常法人が形骸化され実質的に個人がその法人の名において取引をなした場合において右の個人が資産を有せず、法人に資産のある場合には法人に対し債務の履行を求めることができるのであつて、仮に法人格否認の法理が適用される場合であつてもこれを妨ぐべきものでないことは右の法理が債権者保護の目的に基づくものであつて、さらに右会社の取締役となつている者に資産があり、かつ同取締役が会社業務執行につき故意又は重過失により会社の資産状態を悪化させ会社資産及び会社の背後にある実質上の経営者の資産のみによつてはいまだ会社債権者に対し十分な弁済の資力を有しない場合には法人格否認の法理を適用するにとどまらず、なお会社債権者の選択により商法二六六条の三の規定をも適用してその保護をはかる余地を認めることは法人格否認の法理があるからといつてこれが妨げられるものではないものと解すべきであるから、第一次的請求として控訴人貞三につき加茂農機の法人格を否認して同会社名義の買掛金代金債務の支払義務を認め、第二次的請求において同会社の取締役である控訴人種二に右買掛金債務の支払を不能にならしめた責任を商法二六六条の三の規定により負担させることができるものというべきである。

二したがつて、右の限度で被控訴人らの本訴請求を認容した原判決は相当であつて、これが取消しを求める本件控訴は理由がない。〈後略〉

(菅野啓蔵 舘忠彦 安井章)

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